Vo.15 お引き渡しのたびに想うこと

今月は、これまでプランニングを進めてきた東京都墨田区でのリノベーションや、愛知県碧南市での新築戸建など、プロジェクトのお引き渡しが重なる1ヶ月となりました。


お引き渡しの日は、私にとって毎回特別な一日です。そして何度経験しても、この日だけは少し緊張します。


図面の上で考え続けてきたこと、何度も打ち合わせを重ねて決めてきたこと、工務店の皆様と一緒に現場で積み重ねてきたこと。そのすべてがお施主様の前に完成した形として現れ、初めて「住まい」として評価される瞬間だからです。


玄関の扉が開き、お施主様が驚かれながら一歩ずつ室内へ足を踏み入れ、ゆっくりと空間を見渡される。その時間が、私にとってはとても印象深いひとときでもあります。


家具や照明、素材や色合い、それぞれの細かなディテールを一つひとつご覧になりながら、少しずつ笑顔になってくださる姿を見ると、「この仕事をしていて本当に良かった」と心から思います。


住まいは、人生の中でも最も大きな買い物の一つです。その大切な住まいづくりをTYSENNに任せてくださったことへの感謝は、お引き渡しのたびに改めて強く感じます。




私は、お引き渡しは住まいづくりの完成ではなく、新しい暮らしの始まりだと思っています。


これから何年、何十年と暮らし、ご家族との時間を重ね、思い出が積み重なっていく場所。


朝のコーヒーを飲む時間も、休日をゆっくり過ごす時間も、大切な人を迎える時間も、その空間の中で生まれていきます。


だからこそ、お施主様が完成した住まいをご覧になって喜んでくださる姿を見ると、大きな達成感とともに、この仕事の責任の重さ、そして何よりやりがいを感じます。


お引き渡しの時は、お部屋は新品でピカピカです。でも、これから住まわれる中で、無垢フローリングは少しずつ色味が変化していくかもしれませんし、塗装壁には知らないうちに小さな傷が付くこともあるでしょう。でも、そうした変化こそが「人が実際に住んでいる温かみ」となり、より愛着の湧く空間へと育っていくのではないでしょうか。




そして、お引き渡しの日には、もう一つ必ず思い出すことがあります。


それは、約7年前の自分のことです。


私は7年ほど前、まだインテリアデザインの仕事とは無縁のサラリーマンでした。


過去のブログに記載した通り、その頃、私は自分自身でマンションを購入し、お施主という立場でリノベーションを経験しました。


お引き渡しの日、リノベーション会社から鍵を受け取り、妻と二人で新しい住まいへ足を踏み入れたあの日のことは、今でも鮮明に覚えています。


「これからここでどんな暮らしが始まるのだろう」


そんな期待に胸を膨らませながら部屋を歩き回ったこと。家具をどう配置しようかと想像したこと。窓から見える景色を眺めながら、新しい人生が始まるような感覚になったこと。


お施主様がお引き渡しの日に見せてくださる表情を見るたびに、その時の自分が重なります。


まるで、昔の自分を見ているような、不思議な感覚になります。


だからこそ、お施主様が今感じている期待や高揚感を、私自身も少しだけ理解できるような気がしています。




そしてもう一つ思うのは、「人生は本当に何が起こるかわからない」ということです。


当時の私は、自分が住むためのマンションをリノベーションしていました。


それがまさか7年後、その経験を生かし、人様の住まいづくりを仕事にしているとは想像もしていませんでした。


当時はただ、自分が理想の住まいをつくりたいという思いだけでしたが、その経験が今では、お施主様へのご提案や設計の考え方に数多く生かされています。


さらに振り返れば、それだけではありません。


長年勤めていた百貨店で培った接客やお客様との向き合い方、自分自身がリノベーションを経験したからこそ感じた「ここはこうすればもっと良かった」という実体験。そのすべてが今の仕事につながっているように思います。


当時は一つひとつが別々の出来事に見えて、正直「これって自分の成長につながっているのかな」と、周りと比べて不安になる時期もありました。


でも振り返ると、それらは今、一本の線となり、今のTYSENNに繋がっている気がします。


人生は、点と点が後になってつながるものなのだと、お引き渡しの日にはいつも感じます。


だからこそ、これからも初心を忘れず、お施主様との出会いを大切にしながら、一つひとつの住まいづくりに真摯に向き合っていきたいと思います。


完成した空間をお渡しすることは、私たちにとっては一つの区切りですが、お施主様にとっては新しい暮らしのスタートです。


そのスタートに携われることは、私にとって何よりの喜びです。


お客様の人生の大切な節目に立ち会えることに感謝しながら、これからも一つひとつの住まいを丁寧につくっていきたいと思います。




Written by Tatsuro Awano